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バックパッカーの旅Ⅰ(東京~アテネ)

バックパッカーの旅Ⅰ(東京~アテネ)

≪タイ≫バンコク

            ≪八月二十日≫      -壱-



  移動日の今日も素晴らしい陽射しが、中天にさしかかってい

る。


 11:00、いつもの硬いベッドから起き出して、移動の準備に入る。


 思いは泰国。



  少々の下痢と靴擦れが気になる。


 徐おじさんと数人の泊まり客に見送られながら永安旅社を後にした。


 すぐ下の食堂で最後の食事を取る事にした。



  牛乳と卵焼きを胃の中に流し込むと、すぐ近くのバス通りに出

て、空港行き(101番)に飛び乗った。


 このバスは香港島から九龍(カウルーン)へと海底トンネルを抜けて

走る。


 超・・・・快適だ!


 後部座席に腰を下ろし、香港での生活が終わろうとしている現実を振

り返る。


 一枚のガラスを通して見る香港の街は、未来の日本の生き方を示して

いるようで、空恐ろしくなる。



  面積にして日本の淡路島ぐらいの中に、人がひしめき合って生

きている。


 自然と建物は上へ上へと伸びざるを得ないし、あらゆる人のためにあ

る法も緩めざるを得ない現実。


 超近代的なビル群と廃墟のようなスラム街の建物が同居する街、香

港。


 下層市民が犠牲のになって成り立っている香港。



  窓から突き出た細く長い棒には、一様に洗濯物が溢れんばかり

にぶら下がっている。


 日本人観光客達の何人があの汚いところで眠り、汚い屋台で食事を取

って帰ってくれることだろうか。


 そんな事を想いながら、目を窓の外に向けたまま、バスは海底トンネ

ルを抜けると、九龍へ・・・そして、カイタック空港へ向かう。



  空港の近くでバスを降りると、車道をくぐって空港オフィス

へ。


 数日前、初めて香港の土を踏み、オロオロしている自分の姿を、苦笑

いしながら想い出していた。


 空港内では、キャンセル待ちをしていると言うM君等と、またも再会

し、六人でタイへ向かう事になった。



  出発は15:25で再チェックは14:00。


 それまで、空港内のスナックバーで、コーヒーでも飲もうと言う事に

なり、出発までの時間を過ごすことになった。


 待合室ではこれから日本に帰るという、団体客にぶつかってしまう。


 我々とは別の飛行機であるが、一人三つ以上の荷物を抱え、話し声の

大きいのには参ってしまう。



  お迎えのバスに乗り込んで、”Thai InternationalAirLines”

の飛行機(TG601)に駆け上がると、すでに台北からの乗客たちで、いっぱい

の状況だった。


    鉄臣 「予約しといて良かったね!」


    皆  「バカ!た立ち席なんてないんだよ!」


    鉄臣 「アッ!そうか。」



  10C席に座ると、なんと後部座席には、日本からの若いギャル達

が座っているではないか。


 まるでこの飛行機が彼女達の専用機のようにキャー!キャー!と五月

蝿いのには参ってしまう。


 彼女等にしてみれば自由を満喫しているのだろうが、周りの人たちの

事を顧ない、不届きな行為に・・・・誰かが注意しなければ、いつまでも騒

いでいる気なんだろう。


    俺  「うるせーなー!ちょっとは静かに出来ないのかよ!」


 一瞬、黙ってしまったが、それで黙っているギャル達ではない。



  飛行機は香港を離陸。


 通路側なので外の様子は見えない。


 機長からのアナウンスによると、飛行機は高度31000フィート(≒

9000m)を時速930kmで飛行中、機外の温度は-40°cとか。


 機内では、食事と飲み物が配られた。



  だんだんと島影が見え始めたと思ったら、香港とはまるで違う

陸の様相を呈してきた。


 家らしい家の姿は見えず、そうかといって緑の山が見えるわけでもな

い。


 一面の田園風景が目に飛び込んで来た。


 四角く区画された田畑が延々と続いている。


 そんな田園の中へ飛行機は高度を下げはじめた。



*



 飛行機は無事着陸を果たし、お迎えの空港バスでオフィスまで

運ばれると、まずイエローカードのチェックが待っている。


 そこを通過すると、今度はパスポートのチェック。


 ここでは、いろんな人種に分けられて、チェックを受ける。



  タイ人だけのカウンター、中国人のカウンター、そしてアザ

ー・カントリーのカウンター。


 三つのカウンターに分けられていて、日本人の我々は、西洋人と同じ

アザ-・カントリーのカウンターへ並ぶのである。


 長い列をつくって、やっとのおもいで通過すると、飛行機から降ろさ

れた荷物が、回転式のベルトコンベア-に載せられて、グルグル回りながらで

てくる。



  その中から自分の荷物を探し出し、荷物検査のカウンターに行

く。


 そして、タイ入国を果たした。



  税関を出て、マネーチェンジを済ませて出口へ向かうと、ホテ

ルの客引きが数人集まってきた。


 ホテルの案内所も客引きも無視して外に出る。


 この空港から首都・バンコクまでは相当離れていて、バスやタクシー

を利用するしかない。


 もちろん鉄道も走ってはいるのだが、待ち時間が長い。



  空港前のバス停から、29番と書かれたバスに乗り込んだ。


 ガイドブックも地図も持たないまま、我々は会長に言われるままバス

に乗り込んだ。


 バスは割りと空いていて、皆が座る事が出来た。


 かなりのオンボロバスだ。


 日本で廃車になったバスを走らせている。


 運転手の前にあるはずの計器類は、ほとんど壊れていて用を成さな

い。


 それでも運転手は全く気にしない。


 乗ってる我々が気にするだけだ。



  席につくと、すぐ女の車掌がやってきた。


    会長 「一人、75サタンだからな!」


 サタンとはバーツの下の単位だ。


 日本で言えば、バーツが円で、サタンが銭ということになる。


 つまり100サタンが1バーツと言う事。


 バス代は、≒11円。


  ≪1バーツ≒15円≫



  女性の車掌は手に円筒形のブリキ缶を持っていて、ガシャ、ガ

シャ、と音をたてながら近ずいてくる。


 良く見ると、中は三つに区切られていて、一つには小銭が入り、一つ

には乗客から貰った紙幣を入れている。


 もうひとつには、バスの切符がまるでトイレットペーパーのように巻

かれている。


 そのペーパーをクルクル引き出しながら、器用に取り出すと丁寧に切

り取って、乗客に渡していく。


 なんとも風変わりな、面白い物である。


 日本で言えば、首からぶら下げたバッグのような物と言ったらいいだ

ろう。



  何処を走っているのか、もう外は暗くなりはじめている。


    会長 「終点がバンコクだから、ゆっくり座ってろ!」


 こんなに落ち着き払っていられるのも会長のおかげである。


 バスはバンコクの街中に入っていく。


 やはりここでも、大きな看板は日本の企業の看板。


 完全に日は沈んだ。



  街の中に入って、信号でバスが停車するたびに、安全地帯に居

た子供達がバスに近づいてきて、花を売り歩いたり、手にしているハンド・

ワイパーで、車のフロントガラスを磨いたりしてお金を稼いでいる姿が目に

入る。


 もう夜だと言うのに、これからが稼ぎ時とでも言うように、車の周り

を飛び回っている。



  バスはバンコク駅前に到着した。


 まだ夜も早いせいか、屋台とか物売りが並び、赤々と灯を灯してい

る。


 バンコクのメイン通りが、目の前を走っているせいか、車の騒音が激

しく聞こえてくる。


    会長 「今日はもう遅いから、ここで泊まるぞ!」


 目の前に大きなビルが建っている。


 ビルにはステーション・ホテルと書かれていた。



  一階には食堂とフロントがあり、部屋に行くには階段とエレベ

ーターがある。


 エレベーターと言っても、三人が入ればいっぱいになるような、ちゃ

ちなエレベーターだ。


 シャワー・トイレつき、一人60バーツ(≒900円)。


    会長 「高いけど、今日はここに泊まる。女には注意するよう

          に!」


    鉄臣 「女って?居るんですか???」


    会長 「居るよ!病気と枕探しに注意!後は知らない!」



  各自別々に部屋へと案内された。


 2F・4F・5F・6Fと皆別々な個室だ。


 中央に長い廊下があり、両サイドに個室が並んでいる。


 俺は602号室に案内された。



  ドアを開けると、部屋はなかなか広かった。


 大きなダブルベッドに、シャワー・トイレルーム、そしてテーブル・

物入れとイスが二つ。


 清潔とはいえないが、移動の疲れを癒すのには十分な広さだ。



  カーテンの引かれた大きな窓からは、バンコク市内が十分に見

渡す事が出来た。


 何しろここは6階なのだから。


 荷物を置いて、部屋の鍵を掛けて、一階の食堂に全員集合した。


 タイ入国を祝って、ビールで乾杯。


 こうして我々は、三カ国目の国に上陸した。


 こうして、皆と旅が出来るのはここまで。



  初めての外国旅行を経験する野郎ばかり、会長のおかげで地な

らしも出来た。


 これからは、各自で旅をする事になる。


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